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London 2012 Aquatics centre; London 2012 Aquatics centre;

$name, ロンドン

人目をひくデザイン、かつオリンピック後の利用を見据えたアクアティクス・センターは、予算が厳しいながらもサステイナビリティに配慮して設計され、オリンピック開催の1年前に竣工した

2012年のロンドン・オリンピック大会後は、未来の水泳選手や学校、一般市民に利用される目的で建設されたアクアティクス・センター。このアクアティクス・センターにおいて、アラップは、マルチ・ディシプリナリ―・エンジニアリングによって、建築家ザハ・ハディド氏の壮大なビジョンを実現させました。施設は、オリンピック後の一般利用に主眼を置きつつ、ロンドン・オリンピック会期中の観客を収容する仮設構造を付加するかたちで、設計されました。

省エネルギーな施設

独特な建築デザインと長期的な利用を見据え、限られたコストの中でも、サステイナビリティに配慮した設計がなされています。高水準の断熱性や気密性、昼光利用といった、サステイナビリティを大きく向上する要素は、設計の初期段階から組み込まれました。メインプール全体の照明には自然光を利用し、水槽には断熱が施されています。さらに、プールの大空間には環境に応じて制御可能な換気システムを採用し、ゾーンごとに要求に応じた個別制御を行っています。

コンクリートについては、再生骨材やセメントの代替材料を使用することで、環境負荷を大きく低減し、建物全体での負荷低減効果は、クライアントの定めた目標値を上回りました。これによりコンクリートに関して、BREEAM(英国の建築環境評価制度)のイノベーション・クレジットを獲得しています。一方で、プールの水処理にも、要求に応じた制御を行うシステムが採用されています。このシステムは、電力、水、処理用の薬品の消費を抑え、ランニングコスト低減の一助となっています。全体としては、上水の使用を42%低減することに成功しました。

複雑な形態

曲線的な屋根や、鉄筋コンクリート躯体の複雑なジオメトリを扱うために、設計チームは3Dモデルを活用した設計を行いました。各種の専門的な検討は、この3Dモデルを用いて行われました。その結果として生み出された建築は、アラップのスペシャリストがいかに効果的に協働したかを示す証です。建築家やクライアントから与えられた課題に対し、さまざまな可能性を探り、クリエイティブな解決を導く姿勢は、アラップの文化ともいえます。

特徴的な屋根

特徴的なロングスパンの屋根が、この建築の見どころの一つです。アラップは屋根の基本設計から、詳細設計、製作、施工に至るまで携わりました。この間、私たちの課題となったのは、ザハ・ハディド氏がロングスパン屋根として描いた流線形を生かして、実現させることでした。これには、構造の自重を軽くすることが重要となります。アラップの構造エンジニアは、各部材が必要最小限の断面になるよう、繰り返し検討を行いながら、軽く、効率的な構造設計を実現しました。

 

風もまた設計上大きな課題でした。屋根の風荷重は、基部もファサードもない建設途中、オリンピック会期中の仮設座席のある状態、そして仮座席を撤去し常設ファサードを設置した最終的な状態、3段階それぞれで異なる荷重となり、全てについて耐えうる設計とする必要がありました。風洞実験を行い、屋根面の各所の風荷重を同時に測定することで、正確な風荷重をはじき出しました。

 

屋根を支えるサブ・ストラクチャーもまた、満たすべき要件が厳しく、アラップの創造性が求められました。ロングスパンの屋根はアーチ構造を用いられることが多く、その場合アーチの支点に生じる反力を処理するための、架台や引張材が必要となります。しかし、屋根の施工性を向上するためには、屋根と支持構造の相互依存を最小限にしなくてはなりません。そのためアーチの考えを捨て、連続トラスによる効率的な構造が採用されました。この連続トラスは、長いスパンにもかかわらず、わずか3か所の支持点で支持されています。

 

屋根は、長辺方向だけでなく、短辺方向にも大きなスパンが必要でした。中央部分では長辺方向の梁せいを利用したトラス断面としてスパンできますが、両翼に向かって屋根が薄くなる部分ではその手法は適用できないため、別の解き方を模索しなければなりませんでした。最終的には、傾斜したアーチ形状を片持ちの翼部に配置することで、屋根が自立できる構造としました。結果として、効率的で優雅、かつ施工性の高い構造が実現しました。