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松原市民松原図書館, 大阪府松原市

松原市民松原図書館

1980年に開館した既存図書館の建て替えプロジェクト。本建物は、大阪府松原市の中心部、体育館や保健センターが集まる公園エリアに新設されました。

松原市は農業用の溜め池や古墳が多く点在する地域です。指定された敷地内の公園の一角にも溜め池があり、本プロジェクトはその池の埋め立て工事も含めた設計施工一体型のプロポーザルでした。

この条件に対し、池の中に図書館を建てるという一見大胆な提案から始まった計画は、意匠性だけでなく、それを環境デザインに利用すること、さらに土木工事を不要とすることで工期の短縮やコストの削減という利点も見出しています。アラップは、プロポーザルの段階から設計者であるMARUarchitecture+鴻池組と協働し、構造設計、環境設備設計、ライティングデザインを担いました。

プロジェクト概要


600 コンクリート外壁の厚さ

池の中に鎮座する古墳の佇まい

構造については、外周を600mm厚という土木スケールの分厚いコンクリート壁で覆い、内部は鉄骨造による自由度の高い床組とする形式としています。
地震力を全て外周のRC耐震壁に負担させることで、内部の鉄骨フレームは軽快な架構とすることができます。分厚いコンクリート外壁は、それ自体が断熱材や蓄熱材として機能します。

© Kai Nakamura

また、600mm厚のコンクリート壁としたことで、耐震性能を確保しつつも、比較的大きな開口を設けることが可能となり、読書環境に必要な自然採光や通風を実現することができました。


池の中に建てる課題

重量感ある600mm厚のコンクリートの外壁は乾燥収縮も大きく、ひび割れが懸念されました。水の中に浮かぶ建築として、ひび割れは絶対に避けなければいけない課題だったため、外壁にはCCB工法(鉄筋挿入型ひび割れ制御工法)を採用しています。3mごとに目地を設けることでひび割れを抑制し、コンクリート自体も粗骨材として乾燥収縮の小さい石灰石を用い、膨張剤・防水材を添加することで防水性能を高めています。
舗装や隣接する市民体育館との調和を図り、外壁にはピンク色のカラーコンクリートを採用。色粉の混入率に応じた適切な水分量を決定するため、設計段階でコンクリートの打設試験を行いました。

© Kai Nakamura

シミュレーションをフル活用した環境設備設計

BIMモデルを各ソフトウェアに出力して解析を行うことで省力化を達成しつつ、省エネ性能や温熱快適性、日射などを確認しながら効率的に設計を行いました。ほぼ全ての機器、ダクトや配管をモデリングして納まりを確認し、さらにそれらを2次元の設計図書に出力して申請に使いました。

外壁には断熱材を使用せず、RC壁の断熱・蓄熱効果を利用しました。


溜め池で冷やされた風を効果的に屋内へ導く窓と吹き抜けを、ずれ合うように配置することで、館内全体にいる利用者へまんべんなく風を届け、穏やかな冷涼感が味わえるように配慮しています。ため池によって反射された自然光は、室内に時間や季節の移ろいを明るく映し出します。メインの空調方式として輻射空調を採用し、床や机にも設置することで温熱快適性を高める設計としました。

書架と多様な居場所を演出する照明デザイン

スキップフロアで構成される建物内部は、建物中央の吹き抜け空間によって緩やかに繋がりつつ、フロアごとの多様な空間デザインが特徴となっています。本建物の照明計画は、外壁コンクリートを間接照明で演出するとともに、各空間で異なる印象をつくりだしました。

天井が高く開放感のある1階の一般開架エリアは、流れるように並ぶ本棚の向きに合わせてダウンライトを配置し、書架の鉛直面照度を確保しています。各閲覧コーナーにはテーブルランプを設置することで、机上面の照度や明るさ感を補っています。

吹き抜け空間に面する2階閲覧コーナーでは、天井に貼られた金属メッシュの間にスポットライトを設置しました。狭角配光の器具を使用することで本棚や机の上だけが明るい、コントラストのある落ち着いた空間となっています。

3階の児童開架エリアは、ダウンライトをランダムに見えるように配置するとともに、コーン部分を白、ピンク、ゴールドの3色に塗り分けることで、視覚的に楽しい雰囲気をつくりだしました。また、各閲覧テーブル上部には異なるペンダント器具を吊るして、それぞれの場所をわかりやすくしています。

© Kai Nakamura

受賞歴

令和2年度 おおさか環境にやさしい建築賞 商業施設その他部門賞
2020年度 グッドデザイン賞