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Nicca Innovation Centre; Nicca Innovation Centre;

NICCAイノベーションセンター, 福井県福井市

自然体感でイノベーションを促す研究所

「NICCA イノベーションセンター」は、業務用界面活性剤や化粧品の開発・製造などをグローバルに展開する日華化学の研究所です。福井平野の中ほどに位置し、周辺に住宅が並ぶ環境でありながら、世界中から人が集まり、イノベーションの源流を生み出す施設にすることが求められました。研究所は、バザール(市場)のようなにぎわいの創出をテーマに、交流を促す開放的な空間が連なります。

アラップは小堀哲夫建築設計事務所と協働し、構造設計と環境設備設計を担いました。福井ならではの風土を分析し、豊富な井水をはじめ、自然光や卓越風を適切にとりいれる「ハーベスト(収穫)」という概念を用いた環境デザインを行うことで、省エネかつ快適なワークプレイスの実現に貢献しました。

このような取り組みが評価され、国土交通省主催の「住宅・建築物省CO₂先導事業」のリーディングカンパニーに採択されています。

プロジェクト概要


25.6m 大スパン

60CSSスリット角度

天井スリットの間隔や光の量は、光環境シミュレーションやモックアップによる検討で調整をしました © TAKAHIRO ARAI

2つのコラボレーション空間

イノベーションセンター内には大きく2つの「コモン」と呼ばれる空間があります。1つは執務エリアの「オフィスコモン」、もう1つは日華化学の技術を身近に体験できる展示スペースやカフェ、食堂、実践ラボなどを設けた「パブリックコモン」です。2つのコモンは一体的な空間とし、コモンのまわりには透明性の高い実験室を配しています。


コモンという他者との交流の場、実験という個人的な活動の場、両空間の配置計画は社員とのワークショップにより練り上げられたアイデアを反映したものです。このような立体的な空間構成により、多種多様な人たちが多目的に利用できるイノベーティブな環境を創出しています。

吹き抜けを介して垂直方向に連なる空間は、利用者の活動そのものが美術館の展示のような風景を創出するオープンな設計としています。一方で社員のプライバシーに配慮したクローズドな空間も設けることで、利用者の気分やコンディションに合わせて好みの環境が選択できるようにしました。

4層ひとつなぎの大空間

多雪地域で年間の日照率が低い福井において、研究者同士の活発な交流を促し、創造性を刺激する明るく快適な環境が求められました。そこで建物の中心部を4層にわたり縦横につなげ、自然の変化を体感できる高低差、約15 mの大空間としました。大空間の最上部には、大屋根のトップライトとコンクリートスリットスラブ(以下、CSS)を設け、CSSを通してやわらかな反射・拡散光を執務空間に取り入れています。

大空間を覆うトップライトの架構は屋根勾配で、雪を外側へ流し除雪できる切妻屋根を採用しました。切妻屋根の小屋組はトラス構造。鉄骨の上弦材は積雪を受けるガラスの勾配屋根を支え、鉄骨鉄筋コンクリートの下弦材CSSを支えます。小屋組自体は下階からの壁で支持し最大25.6mの大スパンを架けわたす開放的な無柱空間が実現しました。

4階(右奥)壁前には立体光拡散布を設置。役員室と会議室を渡すブリッジからは、研究員の活動の様子が見渡せます © TAKAHIRO ARAI

水・光・風のハーベスト

福井には古くよりその発展に大きく貢献してきた潤沢な「地下水」、そして気候の穏やかな季節に吹く南北の「卓越風」があります。また、豪雪地帯で知られる北陸は曇天が多く日照時間が短い地域でもあります。そのような環境でも、自然光による執務空間の明るさ確保と日射熱除去を両立させるため、60°の角度がついたCSSを計画しました。北側からの天空光はスリットを通過し、直射光はスリットで反射・拡散され、執務空間に降り注ぎます。


CSSは光環境シミュレーションやモックアップを用いて最適な形状としました。スリットには配管を埋設し、井水熱によりスリットを冷やすことで「光を冷やす」仕組みとしています。一部の天井開口部分には布製のルーバーを取り付けて自然光を拡散する「立体光拡散布」を設置しました。日射が当たる壁面(ハーベストウォール)にも配管を埋設することでCSSと同様のシステムにより日射熱除去を行っています。

井水は日射熱除去だけでなく、室内の放射空調、井水熱源ヒートポンプ、研究用途、ヒートポンプチラーへの冷却散水、トイレ洗浄水、融雪など幅広く利用し、吸収した熱は還元井にて再び大地に還すことで井水のもつ環境ポテンシャルを最大限利用する計画としました。

切妻型のトップライトは卓越風をとらえる設計とし、自然通風を促しています。

Nicca Innovation Centre Nicca Innovation Centre

卓越したトータルデザイン

意匠、構造、環境設備、その他さまざまな専門家と密に協働し、自然の恵みを「ハーベスト」の概念に基づき積極的に採り入れることで、開放的で省エネかつ快適な建築をトータルデザインにより実現しました。

© TAKAHIRO-ARAI

受賞歴

2018年度 日本建築大賞
第13回 日本構造デザイン賞[谷川 充丈(元所員)]
第61回 BCS賞
第50回 中部建築賞 一般部門入賞
デダロ・ミノッセ国際建築賞 「特別賞」2018/2019