洗足学園音楽大学 シルバーマウンテン・eキューブが完成しました。設計はk/o design studio (主宰:押野見邦英) とKAJIMA DESIGN です。
この計画は、リハーサル室を3層に積み重ねたシルバーマウンテン(スタジオ棟)と、学生サービス・教員ラウンジ・その他管理部門を5層にまとめたeキューブ(事務棟)で構成されています。
シルバーマウンテンは、滑らかにカーブするボリュームに銀鱗のようなステンレス板をまとい、これと対をなすeキューブは、矩形の量塊に赤いタイルを貼った硬質な表現となっています。アラップは、シルバーマウンテンについて、計画段階から施工に至るまで包括的なファサードエンジニアリングを提供しました。
パラメトリックモデリングにより形態を最適化
シルバーマウンテンの意匠が目指したのは、自由曲面によって作り出された有機的な形態です。一方で、機能上必要となるボリュームを確保し、法規上の建築制限をクリアすることも求められました。これらの異なる要求を満たす最適な形態を生み出すために、新たに導入されたのは“パラメトリックモデリング”という手法です。パラメータによって5本の走査曲線を制御し、三次元曲面を生成するこのモデリング手法は、さまざまな条件に応じて形態を微調整し、最適な形態を導くことを可能にしました。
ダイナミック・リラクゼーション手法に基づく外装計画
もう一つの大きな課題となったのは、ステンレス板の一文字葺で構成する外装の割付でした。製作、施工を効率的に行うためには、特殊形状パネルを減らし、できるだけ多くの単純で同じ寸法のパネルを割り付ける必要があります。そこで、ケーブルや膜構造の形状定義に用いられる“ダイナミック・リラクゼーション”と呼ばれるアルゴリズムを用いた検討を行いました。パネルの目地をケーブルに見立て、繰り返し動的解析を行った結果、特殊形状パネルを最小限にして、約9割を長方形パネルで構成することができました。これにより、施工性も担保した上で、自然界の銀鱗のような有機的なパネルパターンを実現しています。
輝度解析による視環境の検証
ステンレス板で覆われた自由曲面は、日射を思わぬ方向に反射させるため、大学の学生や近隣住民への影響が懸念されました。建物表面の輝度分布を解析し、反射光によるグレアの検証を行った結果、反射率の低い表面仕上げであれば、不快なグレアが抑制され、許容範囲内に収まることが明らかになりました。葺き材はこの結果に基づき、選定されています。
施工段階のジオメトリック・エンジニアリング・サポート
アラップは、施工精度の管理においても、技術サポートを行いました。ダイナミック・リラクゼーション理論によって最適化したパネル割付を実現するためには、下地となるコンクリート躯体は正確に施工されていなければなりません。施工者は、レーザーで鉄筋にマーキングを施し、その位置を計測することで形の管理を行っていました。私たちは、この実測データを3Dモデルに取り込み、計画位置からの誤差を分析、誤差の数値データとともにモデル上に可視化した情報を提供しました。この情報をもとにモルタルの厚みが調整され、高い精度のコンクリート躯体が実現したのです。