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V&Aダンディー, ダンディー

スコットランド初のデザインミュージアム

20189月にオープンした「V&Aダンディー」は、スコットランド初のデザインミュージアムです。デザインを専門とした美術館であり、歴史を生かした、エンジニアリングの傑作です。10億ポンド、30年の歳月をかけてダンディー市のウォーターフロント地区を再生するプロジェクトの主役となる施設が誕生しました。

当地区の再生の中心となるこの画期的な美術館は、日本の建築家である隈研吾氏率いる隈研吾建築都市設計事務所が設計を担当し、多数の建築賞を受賞しています。野心的な現代建築にテイ川のほとりというドラマチックなロケーションをかけ合わせた本プロジェクトにおいて、アラップは構造や環境設備、ファサード、音響、ライティング、火災安全設計に加え、地盤や土木、海洋工学のエンジニアリングといった多岐にわたるサービスを提供しました。

デザインを実現するための構造は非常に複雑で、曲面のコンクリート壁を組み合わせて堅固な構造シェルを形成しています。この構造によって生み出される強度と安定性により、建物は埋め立てられたドックの上にしっかりと設置され、堤防を越えてテイ川に向かって張り出して建てることを可能にしました。

建物の構造設計上、設備との調整も課題となりました。アラップが十分に検討を重ねたBIMモデルを作成し、施工会社はそれを用いて施工図を作成しています。空調負荷を最小限に抑え、負荷の特性を考慮して効率の良いシステム設計を行い、地中熱源ヒートポンプによる冷暖房プラントを合わせることで、省エネルギー設計を実現しました。

照明も建物の設計には欠かすことのできない要素です。アラップのライティングチームは、ギャラリー、ホワイエ、スコットランド・デザイン・ギャラリーを含む建物内、ファサード、外装の照明デザインを担当しました。

プロジェクト概要


2,500 プレキャスト外壁用パネル

3D解析モデル

21独立した外壁セクション

直感で得られるものは限られており、構造がうまくいくと思うところまでしかわかりません。そこから解析を始め、実際に動かしてみるのです。解析モデルがあれば、どこに力がかかっているかがわかり、力がかかり過ぎている箇所があれば、補強する方法を考えます ” Dan Clipsom Dan Clipsom Associate | Building Structures

© Ross Fraser McLean

最初の挑戦

最初の難関は、テイ川に巨大な囲い堰(せき)を建設することでした。囲い堰とは、テイ川に作られた仮設構造物で、敷地周りに12,500tの石を敷き詰め、施工時に川の水を一時的に遮水する役割を果たします。水上に美術館を建てるためには重要な工程でもありました。

 


3Dモデリングによる問題解決

美術館の設計には、3Dモデリングと解析ツールが不可欠でした。初期段階の設計チームの計画では厚さ600mmもの壁の中に巨大な鉄骨が埋め込まれていましたが、3Dツールを使って建物の形状を試行錯誤した結果、壁の厚さを半分に減らし、内部の鉄骨をより細い鉄筋に置き換えることができました。

建物は、シェルのように連続して相互につながった構造体として機能し、屋根、壁、床のすべてが連動して建物を安定させています。アラップのエンジニアは、壁のねじれや折り目がどのように建物を強化するかを検討しました。また建物全体の3Dモデルを作成することで、建設に携わるエンジニアや施工者は、建設していく建物をデジタル上でも確認できるようになりました。

完成した建物は、当初のコンセプトを忠実に再現しています。当初のデザインに比較し、やや外壁の角度を立ち上げ、全体ボリュームを抑えめとしたものの、屋根の張り出し部分は敷地から最大19.8mの跳ね出しを実現しています。

崖を表現したファサードエンジニアリング

石を模したプレキャストコンクリートパネルのファサードは、主要構造である傾斜したコンクリートシェル壁で支持しています。ねじれた形状は水平で直線的な再構成石材パネルでシンプルな構成としています。アラップが開発した複雑なアルゴリズムによって、表面のパネルを適度なランダムさで配置していくことで、スコットランド北東部の海岸線にインスパイアされた隈研吾氏のビジョンである崖のファサードを見事に表現しています。また、パラメトリック・モデリングを用いたプレキャストパネルの最適化によって自然な崖の表情を再現しつつ、製造と輸送の経済性を高めることができました。2,429個のプレキャストパネルの長さや形状は、施工時の確認用の情報として活用しています。

構造壁が二重に湾曲しているゆえに特有の課題もありました。パネルは構造体から吊り下げる形とし、特注のブラケットを設計して、傾斜する壁から角度に応じてパネルを支えるようにしました。これにより、さまざまな種類のプレキャストパネルに共通の固定金具を使用することができ、アラップが考案した設置プロセスの根幹をなす部分となりました。

建物はテイ川に面した水辺に建てられるため、ガラスカーテンウォールの一部は強い波の荷重に直接さらされます。そのため、堅牢なガラス構造とスチール製の支持部材の設計を強化し、すべての要素に十分なレベルの耐食性を確保する必要がありました。ファサードチームは、材料の選定や実現可能性、適切性、施工性において建築家をサポートしています。

再生可能エネルギーの導入

建物のエネルギーは、地熱および空冷ヒートポンプで供給されます。プロジェクトの初期段階で建物に最も適した再生可能エネルギーを決定するため、さまざまな低炭素技術の比較検討を行い、地熱エネルギーを採用しました。建物の冷暖房用に、深さ約60mのボアホールを30個作り、屋根の上には補助熱源として空冷ヒートポンプを設置しています。これらを合わせ、年間を通して美術館で消費する暖房80万kWhと冷房50万kWhを再生可能エネルギーで賄っています。

© Ross Fraser McLean

V&Aダンディーは、V&Aがロンドン以外の場所に恒久的な拠点を設けた初めてのケースです。デザインを専門に紹介するこの美術館自体に驚くべきエンジニアリングが施されていることは、まさに名実一体と言えるでしょう。