言語の変更
JA
阿波銀行 藍住支店; 阿波銀行 藍住支店;

阿波銀行 藍住支店, 徳島県板野郡藍住町

フレキシブルな空間と共に未来を見据える新支店

弧を描くような透明なファサードと開放的なアトリウム、軽やかな木質空間を特徴とした阿波銀行の藍住支店が2023年1月、徳島県藍住町にオープンしました。2階建て総面積1,000m²の建物内には、来行者のためのロビー空間や行員の執務室を備えます。

アラップは構造設計をはじめ環境設備設計、照明デザインのサービスを提供しています。

藍住町は子育て世代を中心に人口が増えている地域であり、従来の銀行支店のように権威を象徴とするランドマークではなく老若男女に親しまれ、気軽に立ち寄ることができるフレンドリーな空間とすることが求められました。今後の銀行形態や働き方の変化など将来のニーズにも対応できるよう、2階の執務室内は構造壁を配置せず、レイアウト変更にも対応可能なフレキシブルな空間となるよう計画しています。

また、徳島の温暖な気候と風環境を利点とした自然換気による空調負荷の軽減や、お客様を迎える吹き抜けのロビーに昼光を取り込み、電気照明とのバランスを検討しました。

プロジェクト概要


約17m 最上階PC梁のスパン

1,000総面積

堅牢で軽快な構造

堅牢で安全な印象を与えたいというクライアントの要望に応え、地震や風などの水平力に抵抗する耐震壁を配置した鉄筋コンクリート造(RC造)としました。一般利用者も訪れる1階は無柱空間であることから、2階床はTCC(Timber Concrete Composite:木とコンクリートの合成構造)スラブを採用し、屋上階に配置した大断面のポストテンション梁から鉄骨ロッドで吊り下げる形としています。

2階の執務室内は、耐力壁を設けず間仕切りのみとすることで、フレキシブルに空間を拡張できる室内環境を実現しました。

1階ロビーとカウンター奥の執務室は無柱空間としました © Satoshi ASAKAWA

国内初の革新的な材料を採用

TCCスラブは、木質材料CLT(Cross Laminated Timber:直交集成板)を型枠として上部にコンクリートを打設し、 CLTに打ち込んだビスなどで互いに緊結し合成断面とした構造部材です。一般的な鉄筋コンクリート造の床に比べて軽量なことから、2階床を支持する屋上階のPC梁の負荷を軽減し、さらには構造体をそのまま木質天井にできるという環境に配慮した床システムです。国内初となるTCCスラブの採用は、木材だけでは困難なロングスパンを可能とするほか、建物全体のカーボンフットプリントの低減にも貢献しています。


TCCスラブの実験と性能評価

TCCスラブは軽量化と高剛性のメリットを得られることから海外では活用が始まっています。一方、国内ではTCCの合成効果を評価するための設計式や研究結果が十分ではなかったため、アラップではプロジェクトに並行し、社内ファンドによる研究と開発を進めました。主に接合部の要素試験、実大実験、含水率試験など一連の性能試験を行ったほか、海外の評価式を準用し、日本におけるTCCスラブの適性を確認した上で採用に至りました。

アトリウム空間の快適な光環境を実現するため、昼光シミュレーションを行い、昼光と室内照明の適切なバランスを検討しました © Satoshi ASAKAWA

振動評価と測定

一般的に軽量でロングスパンの架構は、歩行振動などによる振動障害を生じやすい傾向にあります。そのため、オフィスの快適性が確保できているかどうかの詳細な解析検討を行ったほか、上棟後には実際に建物の主要箇所で振動測定を実施しました。解析値よりも振動レベルを抑えた構造であること、時間経過にともなう変形についても、想定された十分な設計値内であることを確認しています。


CLT構造の制約から照明器具と電気配線は、高さ60mmという限られた天井スロットに組み込んでいます。お客様を対応するロビーは北西向きの2層吹き抜けの空間であることから、電気照明に加えて昼光シミュレーションを行い、昼光と電気照明の適切なバランスを検討しました。

持続可能でレジリエントなシステム

CLT天井の大空間を実現するため、ビルの空調システムには冷媒流量可変システムを採用し、1階には床吹き出し空調を使用しています。

徳島は温暖な気候で風速が強いことから正面の曲面ファサードは風の流れを受けやすくし、自然換気の利点を生かすことで空調負荷を軽減しました。また、屋上にはソーラーパネルを設置し、ビルの省エネルギーに貢献。非常用発電機を設置し、停電時には限られた業務を継続できる電力供給計画としています。

© Satoshi ASAKAWA