福岡県太宰府市にある1,100年以上の歴史を誇る神社、太宰府天満宮の仮殿が2023年4月に完成しました。太宰府天満宮は、国内外から毎年約1000万人の参拝者が訪れる日本の観光名所のひとつです。仮殿は、124年ぶりの御本殿の大改修により改修期間の3年間限定で計画されました。
仮殿は、御本殿の大きな檜皮葺の屋根や日本の伝統建築である屋根の建築に着目した、現代の「生きた屋根」として藤本壮介氏により設計されました。特徴的な森のような屋根の植栽は、改修中の御本殿を隠しながらも周囲の山々や建物、自然環境に溶け込む役割を担い、新たな景色を生み出しています。
こうした伝統建築と現代建築による新旧を融合した最先端の仮殿を具現化すべく、アラップは構造設計を担いました。
プロジェクト概要
3年間 限定の仮殿
1000万人年間参拝者
3ヶ月施工期間
お椀のような傾斜屋根
施工期間が3ヶ月という短工期であったため、シンプルな収まりで建てられる架構が求められました。屋根の先端部分は植栽が載ったうえで4mの長い跳ねだしを実現しました。平屋建てブレース付きの鉄骨造とし、運搬可能なサイズに分けられたパーツをくみあげ、現場溶接のないボルトのみで接合できるフレームとしたことで、短工期でも施工可能な構造としました。
屋根の中央部は厚く膨らませることで、植栽の土の深さを確保し、5m以上の樹木を植えられるようにしています。また、このようなお椀形状とすることで端部を薄く、手前の軒を低く、両端へ反りあがる軽やかな屋根のデザインが可能となりました。これによって斎場の天井は屋根同様に曲面とし、木ルーバーの張り方向に合わせた反りのついた天井が、御本殿の伝統建築の屋根の垂木とも調和します。
工期短縮と素材の検討
埋蔵文化財の関係から敷地内の地面は掘ることができないため、地面の上に鋼板を載せ、コンクリートを打設した置き基礎としました。排水は巧妙に地上に配置されています。本計画では打設後3日程度で所定の強度が得られる早強セメントを採用し、工期短縮を実現しました。コンクリートは基礎のみの使用としたため、屋根面を安定させるために水平ブレースを配置し、地震力や風圧力を耐震構面まで伝達させる計画としました。
季節ごとに彩りを添える植栽
屋根の樹木は天満宮のアイデンティティであるクスノキをはじめとした常緑樹を主としています。低木や下草には花や色彩が変化するものを植え、紅葉や桜、梅などの落葉も取り入れることで季節感を演出します。屋根には66種類の植物が植えられており、土の厚みは植物ごとに調整しています。仮殿が3年後に役目を終えた後も、これらの草木は境内の森へ移植される予定です。