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光風湯圃(こうふうゆでん)べにや, 福井県あわら市

自然と調和する歴史を誇る老舗温泉旅館

1884年創業の「べにや」は歴史を誇る福井県あわら市の老舗温泉旅館です。2018年の火災により焼失した旅館を再生させるため、アラップは小堀哲夫建築設計事務所と協働し、構造設計と環境設備設計を担いました。旅館は2021年夏より「光風湯圃  べにや」として営業を再開しています。

2度の焼失を経て新たに誕生した旅館は、従来の数寄屋建築をノスタルジーとしてただ再現するのではなく、これまでの「べにや」にまつわる人びとの記憶や思い出を尊重した、未来に引き継ぐ旅館として計画されました。

焼失を免れた庭園の景色を取り込むように、全17の客室とラウンジ、温泉大浴場を配置しています。明治時代に「べにや光風館」と名乗っていた旅館のイメージを継承し、各室では、あわらの土地ならではの光・風・水・熱を体感できるような、心地よい空間づくりが求められました。

プロジェクト概要


1884 創業

障子やすだれを透過した柔らかい自然光を室内にふんだんに取り込んでいます。(c) Satoshi Shigeta

自然と調和する環境デザイン

各所に設けられたトップライトや窓、庭の池の水面からの反射、障子やすだれを透過した柔らかい自然光を室内にふんだんに取り込む設計としました。
また、九頭竜川に沿って流れる南北方向の卓越風を東西に延びる建物によって受け止め、室内に風が流れ込むオープンエアな環境を実現しています。風を取り込むための開閉可能な建具の配置や寸法の割り出しは、気流シミュレーションを用いた検討によって計画しました。


温泉熱を利用した快適な温熱環境

大浴場と各客室の浴槽は、常に新しい温泉を供給し続ける「源泉かけ流し」とし、泉質を楽しめるようにしました。
あわら温泉の源泉の熱を利用し、共用部や客室の床下に放熱することで、冬期の底冷え防止を図るとともに、温泉の供給温度調整を可能としています。

客室内の浴室。あわら温泉の熱を利用して共用部や客室の床下に放熱することで冬期の底冷えを防止。温泉の供給温度調整も可能としました。 (c) Satoshi Shigeta

大浴場では浴槽内の上下温度差を抑えるため、温泉を浴槽の底面に潜らせてから浴槽内へ供給する「湯くぐり」を設けました。源泉かけ流しのため、浴槽からあふれたお湯は露天風呂に向かう通路を介して排湯しています。排湯を利用して通路表面を温めることで、足元が冷えることなく浴場内を行き来できるようにしました。


開放的な木造建築を支える構造

豪雪地帯である日本海側では積雪量は1.5mにも達します。そのような条件から、平面形状と勾配屋根を持つ複雑な建物の構造を無理なく構成する必要がありました。さらには、宿自慢の庭園風景を各客室内から楽しめるよう、眺めを妨げる外壁を設けないという課題を抱えていました。

客室棟は数寄屋風の木造とし、中央の廊下は鉄筋コンクリート(RC)壁式構造で耐震性を確保しました。さらに、天井レベルに架けた梁組に鋼製ブレースを設けて面剛性を確保し、木造部分の地震力をRC側へ伝達させました。高さの異なる勾配屋根が上に乗るトランスファー梁としての役割も果たしています。これにより眺望のよい客室空間が生まれました。

現代的大スパン数寄屋建築

エントランスやラウンジ、大浴場などを有するセンター棟は、大きな内部空間と開口を実現するため、鉄骨による純ラーメン構造としました。ラウンジの切妻型の無柱空間は天井高さを最大限確保できるよう、タイバーを用いずに成立させる立体的な架構としています。また、未来につながる建築を目指し、耐力壁を設けない木造とすることで増改築が容易な構造となりました。

エントランス周りに壁を設けないことで街の人たちに親しみを与え、交流を促します。 (c) Satoshi Shigeta